事件名:産業廃棄物処理業等の許可取消処分取消、損害賠償請求控訴事件

裁判年月日等:東京高等裁判所 平成13年(行コ)第262号、平成14年6月26日民事第9部判決

裁判結果:控訴棄却

上訴等:上告、上告受理申立て

控訴人(第1・第2事件原告):株式会社ワイティービジネス 代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士:小林節、萩原新太郎、辰野守彦、小高賢、工藤英知、池田竜郎、小川朗

被控訴人(第一事件被告):静岡県知事 石川嘉延

被控訴人(第二事件被告):静岡県 代表者知事 石川嘉延

上記二名訴訟代理人弁護士 牧田静二、訴訟復代理人弁護士 祖父江史和、指定代理人 山口純司 ほか1名

裁判官:雛形要松、山崎勉、田代雅彦

主   文

1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人静岡県知事が,平成11年4月27日付けで控訴人に対してした,平成8年2月6日付け産業廃棄物収集運搬業の許可及び同日付け産業廃棄物処分業の許可並びに平成10年10月26日付けの特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可及び同日付け特別管理産業廃棄物処分業の許可を取り消す旨の処分は,これを取り消す。
3 被控訴人静岡県は,控訴人に対し,8億9297万5066円及びこれに対する平成13年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
5 3項につき仮執行宣言

第2 事案の概要

1 控訴人は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成12年法律105号による改正前のもの。以下「法」という。)に基づく産業廃棄物収集運搬業及び同処分業並びに特別管理産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の各許可を受けている者であるが,法等関係法令によると,産業廃棄物処理施設の設置者は,許可を受けた施設の処理能力を10パーセント以上変更するときは,都道府県知事の許可を受けなければならない(法15条の2の4第1項,15条2項5号,法施行規則12条の8第1号)とされており,また,産業廃棄物処分業者は,産業廃棄物の処分に当たっては,保管場所から産業廃棄物が飛散し,流出しないように必要な措置を講じなければならない(法14条8項,平成9年12月10日政令353号による改正前の法施行令6条1項2号ロ(1)において準用する同令3条1号ニ)とされている。
 被控訴人静岡県知事(以下「被控訴人知事」という。)は,控訴人に対し,控訴人が①その焼却施設である産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)の1日当たりの処理能力は稼働時間15時間の定格標準能力として許可されたものであるのに,変更許可を受けることなく,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大幅に超える焼却処分を行い,施設の処理能力を無許可で変更したこと(法15条の2の4第1項違反),また,②平成10年12月16日現在,許可された保管量の3倍以上の産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させたこと(法14条8項違反)を理由に,法14条の3で準用する法7条の3及び法14条の6に基づき,平成11年4月27日付けで,前記各許可を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
 本件は,控訴人が,被控訴人知事を被告として,本件処分には事実の誤認,法令の解釈適用を誤った違法,許可取消しの裁量権を逸脱・濫用した違法あるいは理由不備の違法があるなどと主張して提起した本件処分の取消しの訴え(取消訴訟)(第1事件)及び控訴人が,同取消訴訟提起後にその関連請求として,被控訴人知事による違法な本件処分のため損害を被ったと主張して被控訴人静岡県に対し国家賠償法1条1項に基づき提起した損害賠償請求訴訟(第2事件)である。
 原判決は,本件処分に事実の誤認,法令の解釈適用の誤りや裁量権を逸脱・濫用した違法等があるとする控訴人の主張をいずれも排斥し,本件処分には違法な点はないと認定して,控訴人の本件請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴をした。2 上記以外の本件事案の概要は,下記3及び4に記載するとおり当事者の当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄第2の1,2及び第3の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
 本件の主要な争点を改めてここに掲げると,それは,①控訴人が法15条の2の4第1項に違反し本件施設の処理能力を無許可で変更したか否か,すなわち,控訴人が,変更許可を受けることなく,本件施設において,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大幅に超える焼却処分を行ったか否か,その前提として,いかなる場合に施設の処理能力の変更があったといえるのか,②本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものであるのか否か,③本件処分は,行政手続法14条1項に違反するか否か,すなわち,本件処分に理由不備・不十分の違法があるか,である。

3 控訴人の当審における主張
(1) 本件処分についての法適用の誤り(争点①関係)
 本件処分の理由の一つとして,法15条の2の4第1項違反が挙げられているが,この違反とは知事の許可を受けないで施設の処理能力等を変更した場合であって,控訴人は本件施設に何ら変更を加えていない以上,同条1項違反に該当しない。
 すなわち,本件施設の処理能力は,廃油18.60㎥/日,廃プラスチック類4.98t/日,木くず19.18t/日,紙くず15.57t/日,繊維くず15.76t/日,動植物性残渣28.81t/日とその処理量で定められている。この処理能力は,15時間稼働を前提に計算されたものであるが,この15時間というのは,夜間(午後9時から午前6時までの9時間)は操業を行わないという地元住民との公害防止協定に基づくものであり,設備・機械の制約ではない。
 そして,産業廃棄物処理施設の処理能力の変更とは,例えば焼却炉の容量の変更など,施設そのもの(規模等)の物理的変更による処理能力の変更を意味することは明らかである。このことは,処理能力という規定文言からして,また法15条2項5号が最終処分場である場合にあっては埋立場所の面積・埋立容量をもってその処理能力を表示するべきものと規定していることからしても明白である。控訴人は,本件施設には何ら手を加えておらず,施設の処理能力を変更させたわけではなく,法15条の2の4第1項に違反することはない。
 また,産業廃棄物処理施設の設置許可の基準を定めている法施行令7条では,廃棄物の種類に応じて,焼却施設の「1時間当たりの処理能力」という文言を用いており,処理能力は明らかに処理し得る容量であり,時間的要素を含むものではなく,処理能力という用語自体には時間の観念は入っていない。確かに,稼働時間を延長すれば,より多くの産業廃棄物の焼却処分が可能となるのは事実であるが,それは処理能力が増すのではなく,実際の処理量が増すのである。したがって,稼働時間の延長による方法によっても,処理能力の変更があるというのは,それ自体誤りである。
 被控訴人知事は,控訴人が処理能力算定の根拠となる稼働時間を上回る焼却処分を行ったことをもって,本件施設の処理能力を変更したとする。しかし,法15条の2の2,法施行規則12条の6第2号は,維持管理基準として,処理能力を超える産業廃棄物の投入を行うことを規制しており,仮に同条項に触れることがあったとしても,本件処分の理由とされている,法15条の2の4第1項違反,すなわち施設の処理能力そのものを変更したという意味にならないのは明白である。また,被控訴人知事の論旨に従えば,仮に控訴人が地域住民のために遠慮して稼働時間15時間を下回る12時間の操業に止めた場合も,同様に無許可で施設の処理能力を変更したことになるということになってしまうであろう。
(2) 裁量権の逸脱(争点②関係)
 全国における平成9年4月から平成10年3月までの1年間の取消事例は,欠格事由該当を理由とするものか,改善命令・措置命令違反の場合のものしかなく,行政命令を前置せずに取消しをした例はない。このような過去の取消事例との比較からすれば,平等原則及び比例原則からして,営業の自由を奪取する業の取消しという重大な処分をするに当たっては,改善命令違反・措置命令違反,あるいは廃掃法違反による罰金刑以上の刑の確定という重大な違反行為が必要である。しかるに,本件において,被控訴人知事は,改善命令も出さずに,いきなり業の取消処分をしたことは,平等原則・比例原則に反し,不当・過大・違法な処分であったことは明らかである。仮に,埋火状態が焼却になり,それにより焼却時間超過になるというのであれば,まず改善命令を発するべきである。そして,このような改善命令は,施設の構造上埋火をしている業者全社に対して発すべきであり,これを経ずに許可の取消しを行うのは,適正手続違反であり,また甚だしく均衡を失し裁量権を逸脱している。
(3) 処分理由の不備・不十分(行政手続法14条違反)(争点③関係)
 行政権は,処分に先立って,単に違反事実を記載するだけでなく,当該処分が相当である理由に加えて,対象者の主張・証拠に関して,重要な点については応えなければならないことになっている。すなわち,本件処分の理由として,本件施設の1日当たりの処理能力は稼働時間15時間であるというが,本件施設の処理能力は,産業廃棄物処理施設変更許可証には,前記のとおり産業廃棄物の量で記載されているのであり,また,その処分理由として,本件施設の処理能力を大幅に超える焼却処分を行ったとされているが,許可された本件施設の処理能力は産業廃棄物の量で示されているにもかかわらず,処分理由には,控訴人が実際に焼却処分した産業廃棄物の量は何ら示されていない。このように,本件処分には,適切な理由が付されていない。しかも,聴聞の際に示された処分の原因となる事実よりも詳細であることが想定されているのに,本件処分の理由は,それよりも簡略であるから,行政手続法14条に違反し,本件処分は取消しを免れない。

4 控訴人の主張に対する被控訴人らの反論
(1) 産業廃棄物処理施設の処理能力について
 施設の処理能力については,「当該施設が1日24時間稼働の場合にあっては24時間の定格標準能力を意味する。それ以外の場合は実稼働時間における定格標準能力を意味する。ただし,実稼働時間が1日当たり8時間に達しない場合には,稼働時間を8時間とした場合の定格標準能力を意味する」とされている(厚生省水道環境部監修,財団法人日本環境衛生センター編集「廃棄物処理法Q&A」212頁(乙5))。法施行令7条の施設においても,最終処分場における処理能力については,当該最終処分場にどれだけの廃棄物を埋立処分できるかは,当該最終処分場の面積及び容量から規定されることは自明の理である。ところが,焼却施設において,当該焼却施設を使用してどれだけの廃棄物を焼却処分できるかは,焼却する廃棄物の種類や含水率により異なってくるし,同一の廃棄物であっても,焼却炉への廃棄物の投入方法や焼却炉へ送る空気量など,当該焼却施設の稼働の仕方又は方法により異なってくる。最終処分場と異なり,時間当たりの処理能力及び1日当たりの処理能力という形で規定する必要が生ずるのは,このためである。
 そして,法施行令7条の施設に該当する焼却施設を設置しようとする者は,廃棄物の種類に応じて,時間当たりどれだけの廃棄物を焼却することができるか,また,1日当たりどれだけの廃棄物を焼却することができるかを,都道府県知事に提出する産業廃棄物処理施設設置許可申請書に明記する必要があるものであり,また,焼却施設製造メーカー等が作成する焼却計算書等の根拠書類を当該設置局申請書に添付する必要がある。
 焼却施設における処理能力は,稼働時間と密接不可分な関係にあるものであり,時間当たりの処理能力に稼働時間を乗じることにより1日当たりの処理能力が算出されるものである。1日24時間稼働の焼却施設以外は実稼働時間における定格標準能力が処理能力となるものであり,実際にどれだけの量を燃やしたかではなく,物理的にどれだけの廃棄物を燃やすことができる焼却施設であるかが問われるものであることから,稼働時間を10パーセント以上変更した場合も,1日当たりの処理能力が10パーセント以上変更されることになる。
 このように,処理能力を処理量だけでなく処理時間(焼却施設の稼働時間)からも規制することは,焼却施設における日常の焼却処分においては,複数の種類の廃棄物が混合された状態で焼却処分されるのが一般的であり,立入調査をしても,処理量の把握だけでは廃棄物の種類ごとに許可されている時間当たりの処理能力を超過しているか否かを判断することが事実上不可能に近いことからも重要である。
(2) 控訴人の焼却実績から控訴人が処理能力を10パーセント以上超える焼却処分を行ったことについて
 控訴人は,本件処分の前提となった違反事実としての処理能力を10パーセント以上上回る焼却は行っていないと主張するが,次のとおりその主張には理由がない。
ア すなわち,控訴人が被控訴人知事に対し平成11年7月14日付けで提出した「産業廃棄物の処分実績報告書(10年度)」(乙45)によれば,控訴人が本件施設において処分業者として委託を受けて処分した廃棄物のうち,焼却処分した廃棄物の総量は2841トンであり,その種類別内訳は,廃プラスチック類が1724トン(60.7%),木くずが696トン(24.5%),動植物残渣が105トン(3.7%),ゴムくずが3トン(0.1%),紙くずが293トン(10.3%),繊維くずが4トン(0.1%),廃油が16トン(0.6%)となっている。
 この廃棄物を本件施設の許可された1日当たりの焼却量で除した場合の日数は,次のとおりである。

         1日当たりの許可焼却量 焼却実績量  日数

廃プラスチック類  4.98トン     1724トン  346.18日

木くず        19.18トン       696トン   36.28日

動植物性残渣   28.81トン      105トン   3.64日

ゴムくず                     3トン

紙くず       15.57トン       293トン   18.81日

繊維くず      15.76トン        4トン    0.25日

廃油(ウエス)   18.6㎥         16トン

 以上を合計すると,ゴムくず,廃油(ウエス)の焼却時間を加算しない場合であっても,焼却には405.16日を要する。
 ところで,本件施設の平成10年度(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)の稼働期間は10か月(約300日)以下であった。すなわち,控訴人は,平成10年11月15日から本件施設の排ガス処理装置の改良工事を開始し,同年12月23日から24日にかけての被控訴人静岡県の職員による夜間立入検査後は,焼却行為を中止し,平成11年2月26日に試運転を開始した。控訴人が作成して静岡県伊豆保健所に提出した「県外産業廃棄物処分実績報告書」(乙46)には,焼却炉の改修工事のため平成11年1月及び2月の焼却処分実績はない旨記載され,最低2か月間は焼却が停止されていた。
 以上から,本件施設において許可された処理能力の10パーセントを超えて焼却行為が行われたことは明らかである。
イ また,平成10年度中に焼却された廃棄物の総量2841トンを仮に稼働日数を365日として除した1日当たりの焼却量は7.9トンであるところ,廃棄物処理施設の処理能力は,廃棄物の種類ごとにそれらを単独で焼却したとする場合の処理量で表すこととされていることから,複数の廃棄物が含まれている本件の場合,焼却量を年間の日数で除す方法で処理能力との比較をすることができない。控訴人が,本件施設に係る変更許可申請書において,複数の廃棄物について一定の混合比率による基準ゴミを設定し,この基準ゴミを焼却した場合に発生する排ガス量(8800N㎥/H)を廃棄物の種類ごとの1時間当たりの排ガス量で除して処理能力を算定しているのもこのためである。
 この算定方式に基づき,本件施設の焼却実績から控訴人が平成10年度に1日当たり15時間,365日間の焼却行為を行ったと仮定した場合の1時間当たりの排ガス量を算定したのが「平成10年度焼却実績に基づく時間当たりの排ガス量の比較」(乙47)であり,基準ゴミを焼却した場合の排ガス量8800N㎥に対し,焼却実績による逆算では9857N㎥と約12パーセント以上上回っており,廃棄物の種類ごとにみても処理能力を12パーセント以上超過していたと推測することができる。
 そして,前述のとおり,平成10年度の本件施設の焼却日数は300日を下回ると考えられるのであり,排ガス量の観点からも,控訴人が許可された処理能力を10パーセント以上上回る焼却行為を行っていたことは明らかである。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,本件処分に控訴人が主張するような事実誤認や法令の解釈適用の誤りあるいは裁量権を逸脱・濫用した違法等があるとは認められず,その取消し及び損害賠償を求める控訴人の本件請求はいずれも理由がないものと判断する。そのように判断する理由は,下記2ないし4に記載するとおり付加するもののほか,原判決「事実及び理由」欄第4の1ないし5(原判決15頁9行目から34頁13行目まで)に記載のとおりである(ただし,原判決28頁14行目の「16時間30分以上」を「1日当たり16時間30分以上」に改める。)から,これを引用する。
2 控訴人は,産業廃棄物処理施設の処理能力の変更とは,例えば焼却炉の容量の変更など,施設そのもの(規模等)の物理的変更による処理能力の変更を意味することは明らかであり,稼働時間の延長は処理能力の変更ではなく,実際の処理量の変更にすぎないから,控訴人が処理能力算定の根拠となる稼働時間を上回る焼却処分を行ったとしても,本件施設に何ら変更を加えていない以上,法15条の2の4第1項違反に該当しないなどと主張し,産業廃棄物処理施設の処理能力の変更が成り立つ範囲をあくまで当該施設の容量の変更などの物理的な変更による場合に限られると解釈適用すべきである旨強調する。
 なるほど,控訴人が主張するような産業廃棄物処理施設の規模,容量などの機械の構造上その他の物理的な性能の変更が当該施設の処理能力の変更に該当することは異論のないところであるが,問題の焦点は,そのような物理的な性能の変更の場合に限られるかである。
 「処理能力」の意義は,本来的に「容量」とか「物理的な性能」とかと同義とは断定できない上,法等関係法令においても,「処理能力」をそのように限定的に定義するまでの規定は見当たらず,かえって,平成9年の法施行令及び法施行規則の改正に伴う施行通達(乙3)においては,焼却施設の設置許可証の処理能力の欄に,「1時間当たりの焼却能力,稼動時間,それらを掛け合わせた1日当たりの処理能力」を記載することとされているのであり,本件施設についての行政庁である被控訴人知事による法等関係法令の解釈適用においても,これが履践されているのである。すなわち,本件施設につき,控訴人が平成7年7月6日付けで被控訴人知事に対して提出した産業廃棄物処理施設変更許可申請書(甲37の3,乙7)に係る変更許可申請に対して披控訴人知事がした変更許可に基づき,同月13日付けで控訴人に対し本件施設についての産業廃棄物処理施設変更許可証(甲37の4,乙6)が発せられており,この許可証の書面上は,本件施設の処理能力として,「廃油18.60㎥/日,廃プラスチック類4.98t/日,木くず19.18t/日,紙くず15.57t/日,繊維くず15.76t/日,動植物性残渣28.81t/日」と記載されているのである。しかも,このような本件施設の処理能力は,控訴人の提出した前記の変更許可申請書において「1日当たりの焼却時間 15時間(不変)」を設計上の諸条件の一つとして燃焼計算の上申請された数値が承認された結果その記載となったものと認められるのである。
 以上を法1条の規定する法の目的(特に廃棄物の適正な処理と生活環境の清潔保持)に則り総合考察すると,本件施設のような焼却施設の処理能力の変更は,焼却炉の容量などの物理的な性能の変更の場合のみならず,許可されたいわゆる定格標準能力に係る稼動時間を変更する場合を含むと解するのが相当である。
 そうすると,控訴人は,本件施設についての前記許可証に記載された本件施設の処理能力の計算の基礎とされた1日当たりの焼却時間15時間を10パーセント以上変更するときは,被控訴人知事の許可を受けることを要したものといわざるを得ないところ,控訴人は,その許可を受けることなく,原判決が正当に認定しているとおり,平成10年9月7日から同年12月16日までの101日のうち,少なくとも71日,本件施設において1日当たり15時間の110パーセントに相当する16時間30分を明らかに超える長時間にわたる焼却処分を行ったことが認められるから,控訴人は,法15条の2の4第1項に違反したものというべきである。
 したがって,控訴人の前記主張は,採用することができない。
3 また,控訴人は,過去の取消事例との比較からすれば,平等原則及び比例原則からして,営業の自由を奪取する業の取消しという重大な処分をするに当たっては,改善命令違反・措置命令違反,あるいは廃掃法違反による罰金刑の確定という重大な違反行為が必要であるのに,本件において,被控訴人知事は,改善命令も出さずに,いきなり業を取り消す本件処分をしたことは,平等原則・比例原則に反し,不当・過大・違法な処分であり,甚だしく均衡を失し裁量権を逸脱しているなどと主張する。
 しかしながら,前記のように原判決が正当に認定説示する(原判決15頁13行目から20頁18行目まで,24頁9行目から26頁6行目まで,30頁6行目から33頁17行目まで)事実関係にあらわれた,控訴人の違反行為の悪質性,違反内容の重大性,被控訴人知事から過去4回にわたり業務停止(2回)や改善命令(2回)などの行政処分を受けていること,控訴人に対する指導の経過,その指導に対する控訴人の対応,本件施設周辺での生活環境保全上の支障の発生及び過去の取消事例等にかんがみると,被控訴人知事が本件処分をするに当たり,事前に控訴人に対し改善命令を発令しなかったとしても,これをもって平等原則・比例原則に違反し,あるいは裁量権を逸脱した違法があるとは到底認めることができない。
 したがって,控訴人の前記主張は,理由がない。
4 さらに,控訴人は,本件施設の産業廃棄物処理施設変更許可証には,本件施設の処理能力が産業廃棄物の量で記載されているのであり,また,本件処分の理由として,本件施設の処理能力を大幅に超える焼却処分を行ったとされているが,許可された本件施設の処理能力は産業廃棄物の量で示されているにもかかわらず,処分理由には,控訴人が実際に焼却処分した産業廃棄物の量は何ら示されていないのであり,本件処分には適切な理由が付されていないから,本件処分は,行政手続法14条に違反し,取消しを免れないなどと主張する。
 しかしながら,前示のとおり,本件施設の処理能力の変更には,前記のような稼動時間たる焼却時間の延長も含まれると解されるから,被控訴人知事は,本件処分の理由として,控訴人が法に違反する行為をしたことを示すには,控訴人が被控訴人知事の許可を受けることなく相当長期間ほとんど毎日のように稼動時間15時間の110パーセントに相当する16時間30分を大幅に超える長時間にわたり焼却処分を行った事実を特定して示せば足り,控訴人が本件施設において実際に焼却処分した産業廃棄物の量の具体的な数値を示すことまでは必ずしも要しないと解されるのであり,その具体的な数値が示されていないことをもって本件処分に理由が付されていないということはできない。また,本件処分の理由が聴聞の際に示された処分の原因となる事実よりも簡略であるとしても,そのことをもって行政手続法14条に違反するものであるとまでは認められない。 したがって,控訴人の上記主張も,採用の限りでない。

第4 結論

 よって,控訴人の本件請求は,理由がないので,いずれも棄却すべきところ,同旨の原判決は正当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,棄却することとし,控訴費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官 雛形要松
裁判官 山崎勉
裁判官 田代雅彦

 ※主文は、裁判所ホームページより転載(文字化け、伏字部分一部修正済)。