H13.11.15 静岡地裁 平成11(行ウ)10等 産業廃棄物処理業等の許可取消処分取消請求事件

       主   文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

       事実及び理由

第1 請求

1 第1事件被告静岡県知事が原告に対し,平成11年4月27日付けでした平成8年2月6日付け産業廃棄物収集運搬業の許可及び同日付け産業廃棄物処分業の許可並びに平成10年10月26日付け特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可及び同日付け特別管理産業廃棄物処分業の許可を取消す旨の処分は,これを取消す(第1事件)。

2 第2事件被告静岡県は,原告に対し,8億9297万5066円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成13年4月26日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え(第2事件)。

第2 事案の概要

 本件は,被告静岡県知事が廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成12年6月2日法律105号による改正前のもの。以下「法」という。)に基づく産業廃棄物収集運搬業及び同処分業並びに特別管理産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の各許可を受けた原告に対し,原告が@処理能力を無許可で変更したこと(法15条の2の4第1項違反),A産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させたこと(法14条8項違反)を理由に,法14条の3で準用する法7条の3及び法14条の6に基づいて,上記各許可を取消す旨の処分をしたところ,同処分には事実誤認及び法令の解釈適用を誤った違法があるとして,その取消しを求めるとともに(第1事件),同処分により損害を被ったとして,被告静岡県に対し,国家賠償法1条2項に基づき,損害賠償を請求(第2事件)している事案である。

1 争いのない事実

(1) 原告
 原告は,昭和61年1月17日,一般及び産業廃棄物の収集運搬業及び同処分業を主たる目的として設立された会社であり,当初は有限会社であったが(有限会社ワイティービジネス),平成8年7月1日,株式会社に組織変更した。
 原告は,被告静岡県知事(以下「被告知事」という。)から,平成3年2月6日,産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の新規許可を受け,その後,平成8年2月6日,その更新許可を受けたほか,平成5年10月26日,特別管理産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の新規許可を受け,その後,平成10年10月26日,その更新許可を受けた。また,原告は,被告知事から,平成6年5月30日,産業廃棄物処理施設の設置許可を受け,その後,平成7年7月13日,同施設の変更許可を受けた。

(2) 原告が許可を受けた産業廃棄物処理施設の概要
 原告が許可を受けた産業廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)の概要は次のとおりである。
ア 施設の種類  廃油,廃プラスチック類及び産業廃棄物の焼却施設
イ 処理する産業廃棄物の種類  廃油・廃プラスチック類・木くず・紙くず・繊維くず・動植物性残渣
ウ 設置場所  静岡県下田市A町B番
エ 1日当たりの処理能力  廃油 18.60立方メートル
                   廃プラスチック類 4.98トン
                   木くず 19.18トン
                   紙くず 15.57トン
                   繊維くず 15.76トン
                   動植物性残渣 28.81トン

(3) 許可取消処分
 被告知事は,原告に対し,次の理由により,平成11年4月27日付けで,平成8年2月6日付け産業廃棄物収集運搬業及び同処分業並びに平成10年10月26日付け特別管理産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の各許可(以下「本件各許可」という。)を取消した(以下「本件処分」という。)。

ア 法15条の2の4第1項違反
 産業廃棄物処理施設の設置者は,許可を受けた施設の処理能力を10パーセント以上変更するときは,都道府県知事の許可を受けなければならないところ(法15条の2の4第1項,15条2項5号,法施行規則12条の8第1号),原告の焼却施設の1日当たりの処理能力は稼働時間15時間の定格標準能力として許可されたものであるのに,原告は,本件施設において,被告知事の変更許可を受けることなく,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大きく超える焼却処分を行った。
イ 法14条8項違反(平成9年12月10日政令353号による改正前の法施行令(以下「改正前施行令」という。)6条1項2号ロ(1)において準用する同令3条1号ニ違反)
 産業廃棄物処分業者は,産業廃棄物の処分に当たっては,保管場所から産業廃棄物が飛散し,流出しないように必要な措置を講じなければならないところ(改正前施行令6条1項2号ロ(1)において準用する改正前施行令3条1号ニ(2)),原告は,平成10年12月16日,許可された保管量である131.36立方メートルの3倍以上の産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に,飛散・流出させた。

2 争点

(1) 原告は,法15条の2の4第1項に違反したか。すなわち,原告は,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大きく超える焼却処分を行ったか。
(2) 本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものといえるか。
(3) 本件処分は,行政手続法14条1項に違反するか。すなわち,本件処分には,理由不備・不十分の違法があるか。
(4) 損害(第2事件)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点(1)(原告は,法15条の2の4第1項に違反したか。すなわち,原告は,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大きく超える焼却処分を行ったか)について

(被告らの主張)
(1) 産業廃棄物処理施設の設置者は,許可を受けた施設の処理能力を10パーセント以上変更するときは,都道府県知事の許可を受けなければならないところ,ここでいう処理能力とは,同施設が1日24時間稼働の場合は24時間の定格標準能力を,それ以外の場合は原則として1日当たりの実稼働時間における定格標準能力を意味する。本件施設の処理能力は,第2,1(2)エのとおりであるが,これらはいずれも1日当たりの焼却時間を15時間として計算されたものである。したがって,1日当たりの実稼働時間15時間における定格標準能力が本件施設の処理能力ということができ,1日当たりの実稼働時間15時間を10パーセント以上変更するとき,すなわち,16時間30分以上焼却処分を行うときは,被告知事の許可を受けなければならない。
(2) ところが,原告は,被告知事の変更許可を受けることなく,平成10年9月7日から同年12月16日までの101日中80日にわたって,16時間30分以上の焼却処分を行った。
 したがって,原告は,法15条の2の4第1項に違反した。
(3) 原告は,午後9時以降の排煙は,いわゆる埋火(空気の供給を抑え,炉内に火だねを残したまま,運転を停止すること)によるものであり,積極的に焼却処分をしていたわけではない旨主張する。
 しかし,埋火が焼却処分であることは明らかである上,埋火そのものも法令上禁止されている。このことについては,平成9年11月18日に事業者に対して開かれた説明会で周知徹底を図っており,原告においても代表取締役らが出席していた。したがって,積極的な焼却処分と埋火を区別し,埋火は焼却処分に当たらないとの原告の主張は理由がない。

(原告の主張)
(1) 法15条の2の4第1項によれば,施設の処理能力を変更するには,都道府県知事の許可を受けなければならないところ,処理能力という文言及び最終処分場の場合,処理能力については,埋立場所の面積・埋立容量と規定されていること(法15条2項5号)からして,施設の処理能力の変更とは,例えば焼却炉の容量の変更など,施設そのものの規模等の物理的変更による処理能力の変更を意味することは明らかである。本件において,原告は,施設には何ら手を加えておらず,施設の処理能力を変更していない。
 また,仮に稼働時間の超過が処理能力の超過と評価されるとしても,それは処理能力の遵守義務違反となるのみであり,処理能力の変更となるものではない。

 したがって,原告は,法15条の2の4第1項に違反していない。
(2) 原告が平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大きく超える焼却処分を行ったという事実はない。なお,乙10の1ないし8は東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が撮影したビデオ映像であるが,これは東京電力が平成10年8月12日に本件施設付近で発生した同社の送電線の断線事故の原因が本件施設にあることを証明するために撮影したものであって,東京電力は原告を相手方として上記断線事故につき損害賠償民事調停事件を申し立て,現在もこれが係属中である。したがって,上記ビデオ映像の内容の信用性には疑義がある上,断線事故の原因究明というその本来の目的以外に使用することはできないというべきである。
 仮に,上記ビデオ映像の内容に信用性が認められるとしても,本件施設の煙突から認められる午後9時以降の排煙は,埋火によるものであるから,この排煙をもって原告が処理能力を10パーセント以上変更したと認めることはできない。

2 争点(2)(本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものといえるか)について

(原告の主張)
(1) 産業廃棄物処理業の許可取消処分に関する基準
 行政側が作成した「産業廃棄物処理業の許可の取消に関する行政処分申合わせ事項」(甲17)によれば,同許可取消処分は,@違反者が違反行為を繰り返したこと,A違反行為が重大であること,B将来にわたっても業務内容の改善が期待できないこと,C違反行為者自身に反省が認められないことの各要件をみたす場合に行われるとされている。これを本件についてみると,次に述べるとおり,要件Aについては違反行為は重大でなく,要件Bについては将来的には業務内容の改善が十分に期待でき,要件Cについては違反行為者である原告自身が真摯に違反行為を反省しているのであるから,本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものとして取り消されるべきである。
(2)ア まず,法15条の2の4第1項違反(処理能力を大きく超える焼却処分)については,先に述べたとおり,午後9時以降の排煙は埋火によるものであって,積極的に焼却処分を行ったものではない。そして,原告は,被告知事側の説明不足のため,そもそも埋火が法令上禁止されていることを理解していなかったのであるから,これをもって重大な違反行為ということはできない。
イ 次に,原告が,平成10年12月16日,許可された保管量である131.36立方メートルの3倍以上の約500立方メートルの産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所にはみ出させたことは事実であるが,法14条8項違反(保管場所以外の場所への産業廃棄物の飛散・流出)は,罰則規定もない軽微な違反であるし,また,本件では次のような事情があった。すなわち,原告は,平成10年8月26日に行われた公害防止協定委員会において,原告の操業時間に関し,「日曜日,祭日は操業できず,燃焼時間は午前6時から午後9時まで,それ以外の操業については事前に2週間前に市長の同意を得ること」との協定を遵守されたいとの申入れを厳粛に受け止め,その後,日曜日及び祭日並びに操業時間以外の操業を取り止めた。そこで,本来であれば日曜日及び祭日並びに操業時間以外の操業の取り止めに応じ,取引先からの産業廃棄物の搬入量を減少させる必要があったが,取引先側の都合もあり,搬入量を直ちに,かつ,一方的に減少させるわけにはいかなかったこと,原告において焼却できない数量につき新たに産業廃棄物の搬出先を探し,これと直ちに契約を締結することができなかったこと等の理由により,産業廃棄物の保管量が一時的に増えてしまったものである。なお,原告は,平成10年12月16日時点において本件施設内に存在した産業廃棄物約500立方メートルの搬出計画について,同年12月23日付け弁明書をもって伊豆保健所に報告し,かつ,平成11年1月12日までに,実際に搬出処分を実施した。
ウ 以上のような事情も斟酌すれば,上記各違反行為が,取消処分に相当するような重大なものとはいえないことは明らかである。
(3) 原告は,これまで,できる限り事態を前向きに受け止めるとともに,問題が生ずる度に行政側の指導・見解を仰ぎ,対処してきた。また,本件処分の主要な理由と考えられる埋火での処理能力を超える焼却処分の改善のため,被告知事側の指導にしたがい,約4億円を掛けて排ガス処理装置,集塵装置バグフィルター及び焼却設備関係の設置及び改良工事を実施完成させ,かつ埋火の改善についても実施している。したがって,将来的に原告の業務内容の改善は十分に期待できるものである。
(4) 原告の代表者を始め,原告の従業員一同は,本件事態を重大に受止め,再び,このような違反行為を繰り返さないよう真摯に反省している。

(被告らの主張)
(1) 産業廃棄物処理業の許可取消処分に関する基準
 本件処分は,国の定める「産業廃棄物処理業者に対する業の許可の取消し等の指針」(乙15,以下「指針」という。)にしたがって適正に行われた。
 法に基づく知事の権限は,いわゆる国の機関委任事務であり,その執行にあたって国の通知等があればそれに拘束されるところ,法の規定に基づく不利益処分については,行政手続法の規定が適用され,同法12条の規定により処分基準があればこれにしたがって行うことになるが,処分基準そのものは示されていない。代わって,国は同法の施行に合せて平成6年10月1日に「産業廃棄物処理業者に対する業の許可の取消し等の指針について」を各都道府県に通知しており,本件処分もこの指針に基づいて判断した。
 そして,上記指針によれば,業の許可の取消し等に当たっては,@違反行為の態様,A産業廃棄物処理業者の対応等を考慮して処分内容を決定すべきこと,また,違反行為の態様については,違反行為にかかる違反条項の軽重,生活環境保全上の支障の有無,その軽重が,そして,処理業者の対応については,過去に行政処分を受けたことがあるか否か,また,その内容,原状回復等の有無を考慮するとしており,「過去,別の違反行為について刑罰又は処分を受けたことがある場合は,業の許可の取消し等の中でも重い処分をすることが可能である。」とされている。
(2) 本件処分の原因行為である法15条の2の4第1項違反は,「3年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれを併科」(法25条5号)と同法の中で最も重い罰則が定められている。原告は,午後9時以降の排煙は埋火によるものであって,積極的に焼却処分を行ったものではなく,また,被告知事側の説明不足のため,そもそも埋火が法令上禁止されていることを理解していなかった旨主張する。しかしながら,前記のとおり,埋火が焼却処分であることは明らかである上,埋火そのものも法令上禁止されていて,このことについては,平成9年11月18日に事業者に対して開かれた説明会で周知徹底を図っており,原告においても代表取締役らが出席していた。したがって,原告の主張は理由がない。
(3) 過去の別の違反行為
 原告は,本件処分を受けるまで,被告知事から次のとおり4回の行政処分を受けている。まず,原告が静岡県御殿場市C町及び同県下田市A町において,産業廃棄物の積替え保管を行ったことが,事業範囲の無許可変更に当たるとして,平成5年8月4日,業務停止14日(同月16日から同月29日まで)の行政処分を受けた。次に,原告は,平成8年9月13日,被告知事から過剰搬入により飛散・流出している産業廃棄物の撤去,燃え殻の撤去を内容とする改善命令(履行期限は同年10月31日)を受けた。さらに,原告は,平成9年2月12日,被告知事から過剰産業廃棄物の撤去を内容とする改善命令(履行期限は同年11月27日)を受けた。その上,原告は,平成10年6月15日,御殿場市C町の安定型産業廃棄物最終処分場に管理型品目である燃え殻を埋立処分したことを理由に業務停止20日(同月22日から同年7月11日まで)の行政処分を受けた。
(4) 本件処分に至る経緯

 本件施設における産業廃棄物の処理状況については,平成9年2月12日付けでした改善命令に対し,その履行状況を確認するため,被告知事側は二十数回にわたって立入検査したが,履行期限の同年11月27日に至っても改善されなかった。このため,平成10年1月8日以降,下田保健所の環境衛生監視機動班(以下「機動班」という。)が単独で,あるいは下田保健所と機動班の合同の立入検査で保管量の適正化について,原告に対し4回にわたって口頭の指導をしたが改善が見られなかったため,同年4月15日,保健所,機動班,特別監視員の立入検査をし,@処理能力に見合った産業廃棄物の受け入れ,A産業廃棄物の適正処理,適正保管,B排水処理施設の適正管理を内容とする指導票を交付したほか,焼却炉で埋火が認められたため口頭で「許可された焼却時間内に燃やし切るよう」指示し,その後も,同年4月23日,同年6月10日,同年9月21日,同年10月19日,同年11月25日,同年12月16日と6回にわたり指導票を交付し指導した。この間,産業廃棄物の適正処理(時間内に燃やし切ること)については,口頭または指導票により明確に改善を求め,同年10月15日には原告から,埋火の改善について「操業は,午後7時前後には終了させ,午後9時以降は排煙がないようにしていく所存」との内容の改善計画書が提出された。しかし,原告は,度重なる指導及び自ら改善計画書を提出したにもかかわらず,同年9月7日から同年12月16日までの101日中80日にわたって16時間30分以上の焼却処分を行った。
(5) 生活環境保全上の支障
 本件処分前,本件施設の周辺では,次のような生活環境保全上の問題があった。
ア A町森林枯損被害
 静岡県林業技術センターが作成した「下田市A町森林枯損被害調査報告書」(平成9年9月29日付け林技第460号)には,@原告の焼却施設ほか1社の施設を中心とする半径数百メ−トルの範囲の檜をはじめとした針葉樹や広葉樹の森林の一部には,平成六,七年ころから森林枯損が発生している,A被害は施設に近い道路脇の斜面と尾根部でそれぞれ顕著であった,B檜集団枯死木の山側は健全木の林となっており,その境界付近の木は,斜面下部側(施設側)の枝のみが枯れている木が観察された,C枯損が発生している森林では煤のような黒灰色の物質が付着していたなどと記載され,「〜自然要因で枯れたとは考えにくく,人為的な影響が考えられ,産業廃棄物処理施設,特に焼却炉からの排煙が原因で周囲の森林に影響を及ぼしている可能性が高いと推測される。」と結ばれている。
イ 下田市D町地区への飛灰
 本件施設の南西約2キロメ−トルに位置する下田市D町地区を中心として,飛灰が降り,同地区の住民から,みかん等の農産物が汚され,沢水や井戸水に頼る生活が脅かされているとの苦情が伊豆保健所に寄せられた。
ウ 名無川への黒い水の流出
 本件施設から,異臭を伴った白い泡が発生したり,大雨の直後には黒い水が流れたりしている。また,平成10年11月25日の現地調査の際にも,川底に黒い灰のようなものがこびりついているのが確認されている。この原因については必ずしも明確ではないが,本件施設において循環使用するとになっている排ガスの冷却水が,循環機能が十分働かないため,大雨により一部の燃え殻とともに流出したと判断された。
エ 東京電力株式会社の送電線の断線事故
 本件施設は,東京電力の送電線断線事故の原因と目されている。平成10年8月12日,下田市A町地区で東京電力の送電線が断線し,賀茂郡E町の全域と下田市F町地区の約1万世帯が停電し,折しも,お盆の行楽期で町内の旅館,民宿に多数の観光客が宿泊しており,地域社会に多大な影響を与えた。東京電力は,事故原因を「塩化水素」であると断定し,送電線の直下付近で産業廃棄物焼却施設を設置・操業していた原告を相手方とし,沼津簡易裁判所に,損害賠償調停事件を申し立て,現在係属中である。
オ ダイオキシンの問題
 原告は,ダイオキシンが最も発生しやすい低温での焼却,すなわち,埋火を行なっていたと認められるが,ダイオキシンは,一旦,煙突から排出されるとその回収は困難であり,周辺の大気や土壌,動植物等に蓄積されることが多いと言われている。原告は,長期にわたって,ばい煙の飛散や過剰搬入について指導されており,周辺の生活環境の保全にも支障を与えているものと思われる。
(6) 以上のように,法15条の2の4第1項違反は同法の中で最も重い罰則を定めていること,過去に原告が別の違反行為について,4回の行政処分を受けていること及びそれらへの対応が真摯になされていないことなどを考慮すれば,本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものということはできない。

3 争点(3)(本件処分は,行政手続法14条1項に違反するか。すなわち,本件処分には,理由不備・不十分の違法があるか)について

(原告の主張)
(1) 被告知事が原告に通知した「聴聞通知書」(甲4)の不利益処分の原因には,原告の焼却施設の1日当たりの処理能力は15時間であるが,原告は,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大幅に超える焼却処分を行ってきたと記載され,その認定根拠として,東京電力撮影のビデオ映像,2回にわたる夜間監視が挙げられている。このように被告知事は,本件処分の理由について,焼却時間超過のみを指摘し,実際の焼却処分量については何ら触れていない。
(2) そもそも,本件施設の処理能力は,第2,1(2)エのとおり,産業廃棄物の容量で示されており,焼却時間で示されていない。確かに,被告知事がいうように,この処理能力は,1日当たりの焼却時間を15時間として算出されているものであるが,15時間を超える焼却をしたからといって,本件施設の処理能力を超える焼却処分を行ったことには到底ならない。定格標準能力が1時間当たりの処理能力としても,それはあくまでも能力あって,必ずしも定格標準能力をフルに活用して焼却を行っているとは限らない。したがって,被告知事は,処理能力の無許可変更を理由に本件処分をするには,原告が実際に焼却した産業廃棄物の容量を示さなければならない。
(3) 原告の行った焼却処分量も示さず,容量で示されている本件施設の処理能力を上回った焼却処分をしたというのは,明らかに処分理由が不備・不十分である。したがって,本件処分は,行政手続法14条1項に違反する。

(被告らの主張)
 本件処分には,理由不備・不十分の違法はなく,本件処分は,行政手続法14条1項に違反しない。

4 争点(4)(損害)について

(原告の主張)
 被告知事の違法な本件処分によって,原告は,以下の損害を被った。
(1) 逸失利益 8億3297万5066円
 本件処分によって,原告は産業廃棄物の収集運搬及び処分の業をなすことが不可能となり,その結果,原告は,本件処分がなかったならば得られるであろう利益に相当する損害を,本件処分が行われた日である平成11年4月27日以降,日ごとに被っているところ,本件各許可の有効期限は平成13年2月5日までであったから,原告は少なくとも本件処分の翌日である平成11年4月28日から平成13年2月5日までの21か月間の予想売上総利益である上記金額を失った。
(2) 信用毀損・慰謝料 1000万円
 本件処分は権力による人権侵害そのものであり,これにより原告が受けた信用毀損及び精神的苦痛は甚大で,その損害は金銭に見積もると,少なくとも1000万円を下らない。
(3) 弁護士費用 5000万円
 本件訴訟の審理経過等に照らすと,被告知事の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,少なくとも5000万円を下らない。

(被告県の主張)
 本件処分は適法であり,被告県は国家賠償責任を負わない。

第4 争点に対する判断

1 前記第2,1の争いのない事実,証拠(各事実の末尾等に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,原告の産業廃棄物収集運搬業及び同処分業の新規許可(平成3年2月6日)から本件処分に至る経緯等については,以下のとおりであったと認められる。


(1) 原告の過去の行政処分歴
 原告は,本件処分を受けるまで,被告知事から次のとおり4回の行政処分を受けた。
ア 第1回行政処分
 平成4年1月30日,御殿場保健所の立入検査により,御殿場市C町において,原告が許可されていない産業廃棄物の選別及び積替え保管を行っていることが判明し,同保健所が指導したところ,同年2月13日,原告から事実申立書が提出されるとともに,保管物の撤去を確認した。また,原告から同年4月15日付けで御殿場保健所に対し「積替え保管を行っていたとの指摘を受け,以来,同行為は行っていない。今後,当地において指導に従う」旨の報告書(乙29)の提出があった。ところが,同年8月7日,下田保健所及び機動班が本件施設のある原告の下田事業所に立入検査をしたところ,原告が産業廃棄物の積替え保管を行っていたため,積替えは行わないようにとの指導票を交付した。その後,数回の立入検査及び指導票(選別,積替えの禁止等)の交付を踏まえて,同年11月26日に立入検査をしたところ,依然として産業廃棄物の積替え保管が行われていたことを確認し,同年12月から翌年1月にかけて,下田保健所及び御殿場保健所において立入検査をし,原告に対し,過剰搬入した埋立物の処分方法その他につき報告書を提出するよう指導票を交付した。そして,平成5年3月4日,原告取締役G事務長が事実申立書を提出し,平成4年1月1日から同年12月31日までの間に御殿場市C町地先に,合計665立方メートルの積替え保管をしたこと(うち,282.5立方メートルは自主排出)を認めた。これらにより,被告知事は,平成5年8月4日,原告が法14条の2第1項に違反(事業範囲の変更許可無許可)したとして,法14条の3で準用する法7条の3に基づき,14日の業務停止(同月16日から同月29日まで)を命ずる行政処分を行った(甲17,27,乙14,16,23,27の1,2,乙29,証人H)。
イ 第2回行政処分
 平成8年5月7日,下田事業所において,原告自己処分場としては2度目の火災が発生したため,同年5月13日,火災の処理等全般的な処理状況を調査するため,下田保健所が立入検査を行い,自己最終処分場に産業廃棄物の搬入が過剰となっているので改善するようにとの指導票を交付したところ,同年5月31日付けで,原告から同年8月31日を期限とする火災処理等に関する処理計画書が提出された。その後,下田保健所が,同年9月2日,処理計画書の履行状況を確認するため立入検査をしたところ,過剰搬入が全く改善されていなかったことから,被告知事は,原告に対し,同年9月13日,法19条の3第2号に基づき,過剰搬入により飛散・流出している産業廃棄物の撤去,燃え殻の撤去などを内容とする改善命令(期限は同年10月31日)を出した(甲17,乙14,17,前掲証人)。
ウ 第3回行政処分
 上記改善命令に対し,原告から同年10月23日付けで提出された改善計画書の履行状況を確認するため,下田保健所が,同月31日,立入検査をしたところ,一部は履行されていたが,大部分は不履行であった。その後,平成9年1月14日,被告県廃棄物対策課が,再度,履行状況の確認を行ったが,同様の状況であった。原告は,同月23日,「産業廃棄物の撤去処分について」の報告書を提出したが,未改善の状態が続いたため,被告知事は,同年2月12日,法19条の3第2号に基づき,再度,「最終処分されている過剰の産業廃棄物について,平成9年11月27日までに撤去し,覆土,整地する」ことを内容とする改善命令を出し,履行状況確認のための立入検査を逐次行い,同年12月12日,「改善命令の報告について」と題する報告書が原告から被告県廃棄物対策課に提出された(甲17,乙9,14,前掲証人)。
エ 第4回行政処分
 平成8年11月5日,原告が御殿場市C町地内において,焼却灰等の埋立処分を行っているとの投書があったため,同日及び翌日に御殿場保健所が責任者立ち会いの下に現地調査を行ったところ,焼却灰,がれき類等が発見された。同保健所は,平成8年11月22日付けで,原告に対し,法18条に基づく報告を求めたところ,平成8年12月17日付け及び平成9年1月24日付けにて,原告から報告書(乙21の1)の提出があった。その内容は,駐車場造成を目的として使用貸借で借りていた土地である御殿場市C町I番及びJ番(埋立面積2885.41平方メートル)に,本件施設から排出された管理型品目である燃え殻等合計9199.81立方メートルを埋立処分したというものであった。この間,埋立処分された産業廃棄物の撤去を指導するとともに,行政処分の取扱いについて,内部協議を重ね,被告知事は,平成10年6月15日,法14条の3で準用する法7条の3及び法14条の6に基づき,原告に対し,20日間の業務停止(同月22日から翌7月11日まで)を命じる行政処分を行った(甲17,乙14,18,21の1,2,前掲証人)。

(2) 原告に対する指導及び原告の対応等
ア 焼却に関する指導等
 被告知事側は,原告に対し,平成5年5月24日,平成6年1月14日など数回にわたり,焼却炉の能力の範囲で焼却すること,焼却能力に応じた投入量とすることなどの指導を繰り返してきた。平成9年11月8日,法施行令等改正に関する説明会が開かれ,原告代表者も出席した。この席で,被告知事側から原告に対し,「法改正に伴う焼却施設の取扱いについて」と題するパンフレット(乙8)が配付され,野焼きの禁止とともに埋火が禁止されたことについても説明がされた。平成10年4月15日,伊豆保健所(下田保健所が平成10年4月1日に組織変更),機動班,特別監視員が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処理能力以上の焼却処分の禁止)を交付するとともに,時間内に燃やし切るよう口頭で指導した。同月23日,被告県廃棄物対策課,伊豆保健所,機動班,下田市が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,処理能力以上の焼却処分をしないよう口頭で指導した。同年6月10日,機動班,特別監視員が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処理能力以上の焼却処分の禁止)を交付するとともに,時間内に燃やし切るよう口頭で指導した。同年9月7日から翌8日にかけて,伊豆保健所,機動班が合同で本件施設の夜間監視(以下「第1回夜間監視」という。)を行い,後記の公害防止協定で定められた終業時間である7日の午後9時から翌8日の午前7時15分まで本件施設の煙突から継続的に排煙している状況が確認されたことから,同日午前7時15分ころ,本件施設に立入検査を行い,原告に対し,口頭で「埋火でない状態が焼却終了であること。煙が出ていれば焼却終了にならないこと。埋火を中止すること。時間内に燃やし切ること。」を指導した。同年9月21日,伊豆保健所,機動班,特別監視員が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処理能力以上の焼却処分の禁止)を交付した。同年10月19日,伊豆保健所,機動班が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処理能力以上の焼却処分の禁止)を交付した。同年11月25日,被告県廃棄物対策課など関係機関が本件施設に合同調査を行い,原告に対し,指導票(処理能力以上の焼却処分の禁止,埋火の禁止)を交付した。同年12月15日午前6時から翌16日午前0時にかけて,被告県廃棄物対策課,伊豆保健所,機動班が合同で本件施設の監視(以下「第2回夜間監視」という。)を行い,15日午前6時5分から翌16日午前0時まで断続的に排煙を確認したことから,同日午前0時30分ころ,本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(12月15日午前6時より翌16日午前0時10分まで,15時間を大きく超えた焼却処分を行っていると認められるので,焼却を中止すること)を交付した。その際,伊豆保健所の職員のHらが焼却炉内を点検したところ,炉内は容量の3分の2くらいの産業廃棄物ないし灰で埋まっており,炎を上げて燃えている状況であった(甲17,乙8,12,14,23,前掲証人,原告代表者)。

イ 保管に関する指導
 被告知事側は,原告に対し,平成4年10月1日,平成6年7月18日など数回にわたり,能力にあった産業廃棄物の搬入をすること,処理能力以上の産業廃棄物を保管しないことなどの指導を繰り返してきた。平成10年4月15日,伊豆保健所,機動班,特別監視員が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処理能力に見合った受入量とするとともに受入れした産業廃棄物について適正処理,保管管理すること)を交付した。その後,同月23日,同年6月10日,同年9月21日,同年10月19日にも,被告知事側は本件施設に立入検査を行い,原告に対し,同内容の指導票を交付した(ただし,同年4月23日には指導票の交付はされていない)。同年11月9日,伊豆保健所,機動班は合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(場内に搬入した産業廃棄物について飛散・流出せぬよう保管するとともに,過剰搬入,過剰保管とならぬよう適正に処理すること)を交付した。同年11月25日,被告県廃棄物対策課など関係機関が本件施設に合同調査を行い,原告に対し,指導票(保管基準を厳守し,過剰に産業廃棄物を保管しないこと)を交付した。同年12月2日,伊豆保健所,機動班が合同で本件施設に立入検査を行い,原告に対し,指導票(処分場内に産業廃棄物が過剰に保管されているので,新たな産業廃棄物の搬入については見合わせること)を交付した。第2回夜間監視後の同年12月16日午前11時ころ,伊豆保健所は原告に対し,指導票(許可された保管量を超えて過剰に保管しないこと)を交付した。原告は,その後,本件施設の改修工事を行ったが,同工事終了後の,平成11年3月3日,同月16日,同月24日と3回にわたり,口頭で,圧縮梱包処理後の産業廃棄物については早急に適正処理するように指導を受けた(甲17,乙14,23,前掲証人,原告代表者)。
ウ 原告の対応等
 原告は平成8年2月1日,下田市らと公害防止協定を締結し,本件施設の操業時間について,「事業場の操業は,日曜日及び祝祭日は休業とし,平日の操業時間は午前6時から午後9時までとする。それ以外の操業については事前に2週間前に市長の同意を得る。」旨合意した。また,原告は,伊豆保健所の指導にしたがい,排水についての責任の所在を明確にするため,平成10年7月13日,有限会社大伴産業(以下「大伴産業」という。)の排水路と別経路の排水路を完成させた。同年8月26日,原告と下田市らとの公害防止協定委員会において,原告は,上記協定を遵守されたいとの申入れを受けた。同年9月8日,原告代表者が被告県廃棄物対策課を訪れたが,同課から「埋火の改善について報告書を提出すること。焼却炉のダイオキシン対策,排水処理の改善についても記載すること。」との指示を受けた。これをに対し,原告は,排ガス集塵処理装置を従来のものから高性能バグフィルターに変更するなどの本件施設の改修計画(改修計画の一部は,法施行規則(以下「施行規則」という。)の改正に伴い義務づけられたものである)があることを伝え,同年10月9日に排ガス装置の変更とそれに付帯する工事について,被告知事に対し,大気汚染防止法8条1項に基づく届出をし,併せて工事の実施制限期間の短縮願いを提出し,被告知事は,同年10月30日,同届出を受理するとともに,実施制限期間を24日短縮し,同年11月15日から実施することを承認した。また,原告は,被告知事に対し,同年10月15日,「下田事業所焼却炉改善計画について」と題する報告書(甲10)を提出し,埋火の改善について,できるだけ燃えやすい廃棄物(木くず,紙くず)を処理するようにし,操業は午後7時前後までには終了させ,午後9時以降は排煙がないようにしていく所存であることを報告した。そして,原告は,同年11月から本件施設の改良工事を実施し,平成11年2月19日には伊豆保健所による現地確認が行われ,同月26日から試験運転を開始した。その後,原告から上記改修工事に伴う産業廃棄物処理施設軽微変更等届出書(甲24,以下「軽微変更届出」という。)が提出され,同年3月16日,被告知事に受理された。原告が上記改修工事に要した費用は総額約4億円であった。(甲6ないし10,13,22,24,26,32,乙14,23,44,前掲証人,原告代表者)

(3) 本件施設における16時間30分以上の焼却処分
ア 埋火の禁止
 産業廃棄物処理施設の設置者は,施行規則12条の6及び12条の7で定められた維持管理の技術上の基準にしたがって,同施設の維持管理をしなければならないところ(法15条の2の2),同規則12条の7第5項の規定で「例による」とされる同規則4条の5第1項2号ヘによれば,「運転を停止する場合には助燃装置を作動させる等により,炉温を高温に保ち,ごみを燃焼し尽くすこと」とされている。これは,ダイオキシン類が,ごみ焼却炉において,不完全燃焼に伴う未燃有機物が比較的低い温度域(300度程度)で飛灰表面において,塩化銅などの触媒作用により反応することによって生成されるといわれていること(乙4)から,低温域での焼却処分を防ぐため,ダイオキシン類の削減対策として,平成9年8月29日の施行規則の一部改正で規定されたものである(乙2,3)。同条項が,埋火の禁止を意味することは,埋火の定義(空気の供給を抑え,炉内に火だねを残したまま,運転を停止すること)及び厚生省生活衛生局水道環境部長から各都道府県知事にあてた通知である「ごみ処理に係るダイオキシン類の削減対策について」(乙2)に「埋火の廃止 燃し切り停止を行うこと」(1062頁)と記載されていることから明らかである。また,埋火においては,産業廃棄物の低温域での焼却が行われるのであるから,埋火は焼却処分に当たる。したがって,埋火を含めて焼却処分を行っていた時間が焼却時間ということになり,積極的な焼却処分と埋火を区別し,埋火は焼却処分に当たらないとの原告の主張は理由がない。
イ 平成10年9月7日から同年12月16日までの本件施設における焼却処分の状況
(ア) 原告は平成10年9月7日から同年12月16日までの101日のうち,少なくとも以下の71日,本件施設において,16時間30分以上の焼却処分を行った。同年9月については,7日ないし14日,20日,26日,29日,30日の12日間,同年10月については,2日,3日,5日ないし10日,12日ないし14日,17日,18日,20日,22日,24日,28日,29日,31日の19日間,同年11月については,2日ないし9日,12日ないし29日の26日間,同年12月については,2日ないし11日,13日ないし16日の14日間である。このうち,同年9月8日をはじめ,24時間焼却処分した日も,10日以上に及んでいる(甲32,乙10の1ないし8,乙11,12,23,39,前掲証人,原告代表者)。
 なお,東京電力が撮影したビデオ映像(乙10の1ないし8)に写っている午後9時から翌日の午前6時までの排煙が,通常の焼却処分によるものなのか,埋火によるものなのかは必ずしも判然としないが,午後9時以降,埋火を行っていたことは原告代表者自身も認めており(甲32,原告代表者),埋火が焼却処分に当たることは上記アのとおりであること,また,煙の排出状況からして,単なる水蒸気であるとは認められないことから,埋火を含めて16時間30分以上の焼却処分をした日は上記のとおりとなる。
(イ) 原告は,東京電力が撮影したビデオ映像(乙10の1ないし8)の内容の信用性には疑義がある上,断線事故の原因究明というその本来の目的以外に使用することはできないと主張する。
 しかし,上記ビデオ映像を断線事故の原因究明以外の目的に使用してはならないとの理由はなく,また,被告知事側による同ビデオの入手の方法に問題があるとも認められない。さらに,上記ビデオ映像は,専門業者により正確に複製されたものであり(乙10の9),その内容も現地の地形と一致し(検証の結果),第1回,第2回の夜間監視の結果とも一致しており,その信用性は高いと認められる。

 したがって,原告の主張は理由がない。

(4) 原告の法14条8項違反(改正前施行令6条1項2号ロ(1)において準用する同令3条1号ニ違反)
ア 産業廃棄物処理基準
 産業廃棄物処分業者は,産業廃棄物の処分に当たっては,保管場所から産業廃棄物が飛散し,流出しないように必要な措置を講じなければならないところ(改正前施行令6条1項2号ロ(1)において準用する同令3条1号ニ(2)),原告は,(2)イのとおり,度々,処理能力に見合った受入量とするとともに受入れした産業廃棄物について適正処理,保管管理するようにとの指導を受けてきた。
イ 平成10年12月16日の違反事実
 原告は,平成10年12月16日,許可された保管量である131.36立方メートルの3倍以上の約500立方メートルの産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所にはみ出させた(争いのない事実)。また,原告は,産業廃棄物をシートで覆うなどの飛散・流出防止のための措置は講じておらず,産業廃棄物を保管場所以外の場所に,飛散・流出させと認められ,法14条8項に違反した(乙12,23,前掲証人)。
 その後,原告は,平成10年12月16日において本件施設内に存在した産業廃棄物約500立方メートルの搬出計画について,同年12月23日付け弁明書(甲15)をもって伊豆保健所に報告し,平成11年1月12日までに,実際に搬出処分を実施した(甲16)。
ウ 平成10年12月16日以外の過剰保管
 原告は,同日以外にも,平成9年8月6日,平成10年1月8日,同月28日,同年4月23日,同年5月14日,同年6月10日,同月24日,同年7月10日,同年9月21日,同年10月7日にも産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させたことが認められる(乙30)。また,同年10月22日には,約800立方メートルもの産業廃棄物を過剰に保管し(乙41),同年12月2日には産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させたことが認められる(乙42)。さらに,本件施設の改修工事が終了し,かつ,本件処分についての聴聞が開かれた後の平成11年4月9日にも産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させたことが認められる(乙43)。このように,原告は,恒常的に,産業廃棄物の過剰保管を行っていたことが認められる。

(5) 生活環境保全上の支障
 本件処分前,本件施設の周辺では,次のような生活環境保全上の問題があった。
ア A町森林枯損被害
 本件施設を中心とする半径数百メ−トルの範囲の檜をはじめとした針葉樹や広葉樹の森林の一部には,平成六,七年ころから森林枯損が発生していることが認められるが,本件施設と森林との位置関係,枯損の状況,本件施設における焼却状況及び排煙状況から,本件施設からの排煙が森林枯損に影響を及ぼしている可能性が高いと認められる(甲17,乙19,31,32,前掲証人)。
イ 東京電力株式会社の送電線の断線事故
 平成10年8月12日,下田市A町地区で東京電力の送電線が断線し,賀茂郡E町の全域と下田市F町地区の約1万世帯が停電した。折しも,お盆の行楽期で町内の旅館,民宿には多数の観光客が宿泊しており,この停電は地域社会に多大な影響を与えた。ところで,東京電力は,断線事故の原因物質を産業廃棄物を焼却する際に排出される塩化水素であると断定し,送電線の直下付近で本件施設を設置・操業していた原告を相手方とし,損害賠償調停事件を申し立て,現在係属中であって(乙20,前掲証人),本件施設からの排煙が断線事故に何らかの影響を与えている可能性は高いものと考えられる。
ウ 名無川への黒い水の流出
 平成10年11月25日,本件施設の近くを流れる名無川の川底に黒い灰のようなものがこびりついているのが確認されたが(甲17),本件施設の排水管の中に黒い燃え殻状のものが詰まっていたことから,本件施設からの排水が原因の一部になっている可能性が高いと認められる(甲17,乙36,前掲証人)。

(6) 本件処分に至る経過
 被告知事は,原告が法15条の2の4第1項及び法14条8項に違反したことを理由に,平成11年1月中旬ころから,本件処分についての具体的な検討を開始し,指針(乙15)に基づく厚生省との協議を経て,同年2月2日には同省との間で,本件各許可を取消す旨の処分が相当であるとの協議が整った。その後,被告知事は,同月16日,原告に対し,聴聞通知書(甲4)を送り,予定されている不利益処分の内容,不利益処分の原因を告知した。そして,同年3月19日に原告に対する聴聞が開かれ,平成11年4月27日付けで,本件処分が行われた(甲4,17,乙14,24,証人K)。

2 争点(1)(原告は,法15条の2の4第1項に違反したか。すなわち,原告は,平成10年9月7日から同年12月16日にかけて,ほとんど毎日のように処理能力を大きく超える焼却処分を行ったか)について

(1) 原告が平成10年9月7日から同年12月16日までの101日のうち,少なくとも71日,本件施設において,16時間30分以上の焼却処分を行ったことは前認定のとおりである。ところで,産業廃棄物処理施設を設置しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならず(法15条1項),また,産業廃棄物処理施設の設置者が,許可を受けた施設の処理能力などを変更するときも,原則として都道府県知事の許可を受けなければならないとされている(法15条の2の4第1項)。この趣旨は,産業廃棄物処理施設においては,産業廃棄物の中間処理,最終処分が行われるので,施設の構造上の安全性,維持管理の確実性等が確保されていなければ,産業廃棄物が安定化・無害化されず,また,施設そのものが生活環境保全上の支障を生じさせるおそれもあることから,産業廃棄物処理施設の安全性・信頼性の確保を図るために,設置について許可制を採るとともに,処理する産業廃棄物の種類(法15条2項4号),処理能力(同項5号),設置計画(同項6号),維持管理計画(同項7号)については,施設の構造上の安全性,維持管理の確実性,生活環境などへ大きな影響を与えるため,その変更についても許可を要するというものである。ここでいう処理能力とは,産業廃棄物処理施設が1日24時間稼働の場合は24時間の定格標準能力を,それ以外の場合は原則として1日当たりの実稼働時間における定格標準能力を意味するところ,上記法の趣旨から,処理能力を10パーセント以上変更するときは,都道府県知事の許可を受けなければならないとされている(法15条の2の4第1項,15条2項5号,施行規則12条の8第1号)。
 ところで,焼却施設の処理能力の変更の方法としては,@焼却施設の構造の変更による方法,A稼働時間の延長による方法,B実際の焼却処分量の増大による方法(例えば,稼働時間は延長せずに,火力を強めるなどして1時間当たりの焼却処分量を増大させる方法)などがあり得るが,上記法の趣旨からして,いずれの場合も,変更許可を要するというべきである。このうちAの方法による場合については,当該焼却施設においては,稼働時間を延長した分,より多くの産業廃棄物の焼却が可能となるのであり(例えば,稼働時間15時間・処理能力30トンの焼却施設の場合,稼働時間を18時間に延長すれば,36トンの処理が可能になる),処理能力の変更に当たることは明らかであるし,もし,Aの方法による場合は処理能力の変更に当たらないとすると,実際の焼却処分量を行政側が把握するのは困難であるから,上記法の趣旨を損なうことになりかねず適当でない。したがって,処理能力算定の基礎となった稼働時間を10パーセント以上延長するときは,都道府県知事の許可を受けなければならないということができる。なお,平成9年の法施行令及び施行規則の改正に伴う施行通達(乙3)によれば,焼却施設の設置許可証の処理能力の欄には,「1時間当たりの焼却能力,稼働時間,それらを掛け合わせた1日当たりの処理能力」を記載することとされており,Aの稼働時間の延長による方法も処理能力の変更に当たることがより一層明確にされている。

(2) 本件施設の処理能力は第2,1(2)エのとおりであるが,これは,1日当たりの稼働時間を15時間として算定されたものである(乙7の3頁,18頁)。したがって,原告が本件施設の稼働時間15時間を10パーセント以上変更するとき,すなわち,16時間30分以上焼却処分を行うときは,被告知事の許可を受けなければいけない。ところが,原告は,被告知事の変更許可を受けることなく,平成10年9月7日から同年12月16日までの101日のうち,少なくとも71日,本件施設において,16時間30分以上の焼却処分を行ったものであり,その頻度に照らせば,原告は,15時間という稼働時間を遵守する気はなかったと考えざるを得ないのであって,稼働時間を延長したことによって,本件施設の処理能力を変更したものと評価されてもやむを得ない。
 以上によれば,原告は法15条の2の4第1項に違反したということができる。
(3) 原告は,処理能力という文言及び最終処分場の場合,処理能力については,埋立場所の面積・埋立容量と規定されていること(法15条2項5号)からして,施設の処理能力の変更とは,施設そのものの規模等の物理的変更による処理能力の変更を意味するところ,原告は,施設には何ら手を加えておらず,施設の処理能力を変更していないと主張する。
 しかし,処理能力の変更が,焼却施設の物理的変更のみを意味するものではないことは(1)のとおりであって,原告の主張はその前提において採用できない。なお,この点に関しては,焼却施設の物理的変更により処理能力を変更する場合は,通常,燃焼室を変更するものと考えられるが,燃焼室の変更は,設置計画の変更にも当たり,変更許可を要するものとされているところ(法15条の2の4第1項,15条2項6号,施行規則11条2項3号,12条の8第3号ハ),処理能力の変更を原告のように解すると,法が設置計画の変更とは別に処理能力の変更を許可に係らしめた意味が失われることになり不合理であることも,上記(1)の解釈の裏付けとなる。
 原告は,最終処分場に関する規定の仕方をその根拠とするが,最終処分場の場合は,焼却施設と異なり1日当たりの処理能力を観念することができないため,埋立場所の面積・埋立容量と規定されているのであって,同列に論じることはできず,このことをもって,焼却施設の処理能力の変更が,焼却施設そのものの物理的変更のみを意味すると解することはできない。さらに,原告は,法15条の2の4は,物理的な意味での「施設」の変更許可に関する規定であると主張するが,変更許可を要する事項の中には,処理する産業廃棄物の種類(法15条2項4号)など,「施設」とは直接関係ない事項も含まれている。したがって,原告の主張は理由がない。

3 争点(2)(本件処分は,裁量権を逸脱・濫用したものといえるか。)について

(1) 産業廃棄物処理業の許可取消処分に関する基準
 被告知事は,行政手続法の施行に合わせて各都道府県に通知された指針(乙15)に基づいて本件処分を行ったと認められる(乙24,証人K)。そして,同指針によれば,業の許可の取消し等に当たっては,@違反行為の態様,A産業廃棄物処理業者の対応等を考慮して処分内容を決定すべきこと,また,違反行為の態様については,違反行為にかかる違反条項の軽重,生活環境保全上の支障の有無,その軽重が,そして,処理業者の対応については,過去に行政処分を受けたことがあるか否か,また,その内容,原状回復等の有無を考慮するとしており,「過去,別の違反行為について刑罰又は処分を受けたことがある場合は,業の許可の取消し等の中でも重い処分をすることが可能である。」とされているところ,同指針はその内容に照らし,具体的判断基準として合理性を有するものと認められる。そこで,これを本件にあてはめて検討してみる。
(2)ア 原告は,前記のとおり許可なく処理能力を変更し,その結果,法15条の2の4第1項に違反したが,これに対しては,「3年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれを併科」(法25条5号)と法の中で最も重い罰則が定められている。この点で,まず,違反行為の態様が悪質であるといえる。
 原告は,午後9時以降の排煙は埋火によるものであって,積極的に焼却処分を行ったものではなく,また,被告知事側の説明不足のため,そもそも埋火が法令上禁止されていることを理解していなかった旨主張する。
 しかし,前記認定の第2回夜間監視の際の立入検査の状況から考えても,午後9時以降の排煙のすべてが埋火によるものであったとは考えられないが,仮に,原告主張のとおり,これが埋火によるものであったとしても,埋火が焼却処分であり,埋火そのものも法令上禁止されていることは第4,1(3)アのとおりであるし,前記(2)ア認定のとおり,平成9年11月8日の法施行令等改正についての説明会において,被告知事側から,出席した原告代表者らに対し,「法改正に伴う焼却施設の取扱いについて」と題するパンフレット(乙8)が配付され,野焼きの禁止とともに埋火が禁止されたこと,平成10年6月10日の本件施設への立入検査の際にも「時間内に燃やし切るよう」指導がされたこと,同年9月8日の立入検査においても「埋火でない状態が焼却終了であること。煙が出ていれば焼却終了にならないこと。埋火を中止すること。時間内に燃やし切ること。」との指導がされたことは前認定のとおりである。
 したがって,原告の主張は理由がない。
イ 次に,原告は,許可された保管量を大幅に超える量の産業廃棄物を保管し,これを飛散・流出させて,法14条8項に違反した。
 確かに,原告が違反した法14条8項に対しては罰則が定められていないが,同項に違反した場合は,改善命令(法19条の3第2号)の対象になり,さらに改善命令に違反した場合は,「1年以下の懲役又は300万円以下の罰金」(法26条2号)と罰則が適用される。したがって,罰則が定められていないことの一事をもって,軽微な違反であるということはできない。
 また,前認定のとおり,原告は,恒常的に産業廃棄物の過剰保管を行っていた上,産業廃棄物を飛散・流出させたことにより,2度の行政処分(改善命令)を受けたほか,保管に関する指導もしばしば受けている。したがって,原告の法14条8項違反の行為の態様もまた悪質である。
 原告は,公害防止協定を遵守すべく,平成10年8月26日以降,日曜日,祭日,操業時間以外の操業を取り止めたため,産業廃棄物の保管量が一時的に増えてしまったものであると主張する。
 しかし,原告は,平成10年8月26日から同年12月16日までの間の全ての日曜日,祭日に操業しており(乙10の1ないし8,乙11),前認定のとおり,操業時間以外の操業も行っていた。また,原告による産業廃棄物の過剰保管は,同年8月26日以前から,恒常的に行われていたものであり,保管量が一時的に増えてしまったというものではない。
 したがって,原告の主張は理由がない。
(3) 原告は,埋火での処理能力を超える焼却処分の改善のため,被告知事側の指導にしたがい,約4億円を掛けて排ガス処理装置,集塵装置バグフィルター及び焼却設備関係の設置及び改良工事を実施完成させ,かつ埋火の改善についても実施しているので,将来的に原告の業務内容の改善は十分に期待できるものであると主張する。
 確かに,前認定のとおり,原告は平成10年11月から翌11年2月にかけて,約4億円かけて本件施設の改修工事を行ったが,本件処分は,施設の構造基準違反を理由にされたものではなく,稼働時間の延長による処理能力の無許可変更及び産業廃棄物処理基準違反を理由にされたものである。したがって,本件施設の改修が直接的に原告の業務内容の改善に結びつくものではない上,過去の行政処分歴,指導の経過等に照らすと,原告の業務内容の改善が十分に期待できるとはいい難い。
 したがって,原告の主張は理由がない。
(4) 原告は,被告知事が本件施設の改修工事を指導し,軽微変更届出を受理しておきながら,その約1月後に本件処分を行ったのは,行政手続の一貫性を欠くものである上,投下した資本が無駄になるので不当であると主張する。

 しかし,本件処分は産業廃棄物処理「業」及び特別管理産業廃棄物処理「業」に関するものであるところ,軽微変更届出は産業廃棄物処理「施設」に関するものであり,両者は別の規制に係るものである上,改修工事が始まったのは平成10年11月であり,前記認定のとおり,当時,被告知事は本件処分を具体的に検討していなかったのである。また,改修工事の中には,助燃装置の設置(施行規則4条1項7号ロ(4))など施行規則の改正により平成10年12月1日から義務づけられたものも含まれていた上,軽微変更届出は,届出の内容が法所定の要件を満たせば受理せざるを得ない性質のものである。さらに,原告代表者においても,平成10年12月24日に伊豆保健所を訪れ,行政処分がされるか否かを確認しに行っている(乙14)から,平成11年2月16日の聴聞の通知まで,全く行政処分を予想していなかったとは考えられない。
 したがって,原告の主張は理由がない。
(5) 原告は,原告代表者を始め,原告の従業員一同は,本件事態を重大に受止め,再び,このような違反行為を繰り返さないよう真摯に反省していると主張する。
 しかしながら,過去の行政処分歴や指導の経過,さらに前認定のとおり,原告は本件処分についての聴聞が開かれた後の平成11年4月9日にも産業廃棄物を過剰に保管し,保管場所以外の場所に飛散・流出させていること等からして,原告が再びこのような違反行為を繰り返すおそれがないかどうかは疑問である。
 したがって,原告の主張は理由がない。
(6) 過去の取消事例
 広島市において,原告と同様に,産業廃棄物を飛散・流出させたこと及び改善命令にしたがわなかったことを理由に,産業廃棄物処理業の許可が取消されており,また,被告県においても,産業廃棄物処理基準違反及び事業範囲の無許可変更(罰則は,法15条の2の4第1項違反と同じ)を理由に産業廃棄物処理業の許可が取消された例が1件,変更届無届出及び事業範囲の無許可変更を理由に産業廃棄物処理業の許可が取消された例が1件認められる(甲17)。さらに,本件施設に隣接する大伴産業も,本件処分と同じ日に,産業廃棄物処理業の許可を取消されたことが認められる(甲28)。
(7) 以上のとおり,原告の違反行為の悪質性,違反条項の重さ,過去4回にわたり行政処分を受けていること(うち2回は業務停止という重いものである),指導の経過,指導に対する原告の対応,前認定の生活環境保全上の支障の発生及び過去の取消事例等に照らすと,本件処分に裁量権を逸脱・濫用した違法があるとは認められない。

4 争点(3)(本件処分は,行政手続法14条1項に違反するか。すなわち,本件処分には,理由不備・不十分の違法があるか)について

 被告知事は,前記2(1)(2)のとおり,原告が,無許可で稼働時間を延長する方法によって,処理能力の変更をしたことを理由に本件処分をしたのであり,実際の焼却処分量が処理能力を越えたことを理由に本件処分をしたものではない。したがって,被告知事が,本件処分の理由において,原告が実際に焼却処分した産業廃棄物の量を示さなかったことは何ら違法ではない。
 また,確かに,本件施設の処理能力は,第2,1(2)エのとおり,産業廃棄物の容量で示されているが,これは,稼働時間を15時間として計算されたものであり,稼働時間を延長すれば,処理できる産業廃棄物の容量(処理能力)もそれに比例して増大することは自明のことである。したがって,被告知事が,本件処分の理由において,焼却時間超過のみを指摘し,変更後の処理能力(容量)を示さなかったことも違法ではない。
 したがって,本件処分に,理由不備・不十分の違法はなく,本件処分は行政手続法14条1項に違反しない。

5 以上によれば,本件処分に事実誤認及び法令の解釈適用を誤った違法はなく,本件処分は適法である。

第5 結論

 よって,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

静岡地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 佃浩一
裁判官 三輪恭子
裁判官 宮本聡


 ※最高裁判所ホームページより転載。